ヨーロッパ理性の溶かし方
アドバンス・スタディーズ
テーマ3: ヨーロッパ理性の溶かし方<キャンセル待ち>
この世界に言葉では言い表せない領域があるとしたら、それは何でしょうか?言葉によって世界を構築してきたヨーロッパの文化や価値観を疑ってみると、実に豊かな世界像が表れてくることに気づきます。私たちが少なからず影響を受けているヨーロッパ。ここでは言葉の外にある世界の見え方を探ります。
サブテーマ
創造の地下水脈 - 「正しい歴史」から逸れること1・2
小野正嗣(小説家/フランス文学者):2014年10月25日(土)14:00-15:30/15:45-17:15
「クレオール」をキーワードに、ヨーロッパの旧植民地における文学から、ヨーロッパ近代を眺め返す実験です。もともと、カリブ海の群島において混血を意味したクレオール。今ではその人たちが口にするハイブリッドな言語とその文化全体を指します。支配していた国と支配された国の言葉が混ざってできる新種の言語は、生きてゆくためのコミュニケーションのために作られた急ごしらえのもので、語法や文法、発音、単語の綴りなどが統一されていません。その一方で、それは世界を押し込めてしまうような画一的で権威的な言語ではなく、いつでも形を変えながら根づくことのない自由な表現媒体と見ることもできそうです。そうした言語ともつかぬ言語が形づくる世界をエメ・セゼールやエドゥアール・グリッサンの思想や現代フランス語圏文学にたずね、そこからヨーロッパとその文化圏がどのようなものであるか話し合います。
アール・ブリュットが「アート」になる時1・2
保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員):2014年11月22日(土)14:00-15:30/15:45-17:15
フランスのアーティスト、ジャン・デュビュッフェによって名づけられ、「生のままの芸術」を意味し、精神障害や知的障害をもつ人々、高齢者、アートの素人などによる独自の表現を指す「アール・ブリュット」。マッシミリアーノ・ジオーニがキュレーションをした、2013年のヴェネツィア・ビエンナーレの企画展「Encyclopedic Palace - 百科事典的宮殿」では、「アール・ブリュット」がシュルレアリスムや神秘主義、現代アートの作品などとともに展示され、いわゆるヨーロッパ近代の理性では捉えきられない部分を代表し、注目を集めました。また、日本では、近年アール・ブリュットを巡る活動が活発になり、またアートとして受容する制度設計も進んでいます。滋賀県における取り組みや日本各地で展開される小規模な美術館設置プロジェクトなどを紹介しながら、アートと医療福祉が重なる領域から見えてくる表現の可能性を考えます。
ヨーロッパが、アートに投げかける影1・2
西谷修(哲学者):2014年12月20日(土)14:00-15:30/15:45-17:15
わたしたちがよく口にする「アート」とはどのようなものかを客観的に考えるため、「アート」を支える文化基盤である「ヨーロッパ」を読み解いてみます。そこで、二つの疑問からはじめます。ヨーロッパは、いつ「ヨーロッパ」になったのかということ。これは、ピエール・ルジャンドルというフランスの法学者の考えをたよりに、ローマ法とキリスト教が結びついた12世紀イタリアの「解釈者革命」までさかのぼって考えはじめます。もう一つは、そのようにしてできた「ヨーロッパ」の特質とはどのようなものかということ。この地上の多くの人々が依存している資本主義という経済やエネルギーの革命によって加速した近代という時代の構えは、ヨーロッパで生まれました。私たちが「アート」と呼び習わしているものも、こうしたおおきな流れとは無関係ではありません。このレクチャーは、今、「ヨーロッパ」を解き明かすことで、わたしたちが日々信じている「アート」の輪郭を見出だそうとする冒険の時間です。